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脳神経内科の特徴について
脳神経内科では、脳や脊髄、末梢神経の器質的な疾患の治療を専門としています。
神経系機能の障害により、知能や感情、感覚・知覚、自律神経、運動活動、意志伝達に支障をきたしますが、障害の部位や程度によって多種多様な症状が現れます。
最も多い疾患は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害ですが、髄膜炎やギランバレー症候群などの感染性疾患、重症筋無力症などの神経難病も治療対象となります。
脳は人間の生命機能を維持・調整していくための重要な中枢であり、それが障害されることで意識や、呼吸、循環機能が容易に危険にさらされます。
そのため急性期では血圧コントロールや循環動態のモニタリングなどの全身管理が必要となるほか、麻痺や意識障害によるADL低下がある患者さんには日常ケアが必要となります。
急性期を脱しても神経障害によって二次的な障害が生じやすく、例えば嚥下障害によって肺炎を引き起こしたり、運動・感覚障害によって関節拘縮や転倒などのリスクが大きくなるなど、患者さんの回復や予後にも大きな影響を及ぼすことになります。
それらが医療費の高騰や介護負担の増強などといった社会問題の要因ともなっているのです。
また高齢化に伴い認知症を患っている患者さんも多いため、より一層のリスク管理が求められています。
このようなリスクを少しでも回避するために、早期にリハビリを開始することは脳神経内科の特徴の一つです。
意識障害によって点滴を自分で抜いてしまったり、ベッドから転落したりする危険も多く、生命維持を優先して身体抑制をする場合もあります。
倫理面での問題となる部分でもありますが生命尊重には必要でもあるため、家族への十分な説明や短期間の実施など、人間的尊厳を踏まえた取り組み方が求められています。
一般的に脳や神経系の病態はイメージが付きにくく、脳の病気=死を連想することが多いことから、患者さんや家族にとって精神的負担はかなり大きいと考えられます。
また身体的機能の障害によって、他人への依存的な生活を余儀なくされることへの不安や自尊心の低下を招きやすくなるなどの心理的葛藤も存在します。
さらに家族にとっては、核家族化や高齢化によって在宅での介護が困難となる上に、サービスの利用にも限度があったり金銭的な負担を強いられるなどの問題も多く抱えている現実があります。
看護師は疾患によって発生する身体的、心理的、社会的な特徴を把握した上で、個別的な看護やチーム医療に活かしていく必要があります。
脳神経内科ナースに必要なスキル
脳神経内科で働くにあたって困らないためには、まず脳神経の構造と機能についてしっかりと身につけておくことが重要です。
消化器系に比べれば範囲は限られてはいますが、何といっても多くの神経とそれに関連する機能や支配網はとても複雑です。
脳梗塞や脳出血は障害の部位や程度によって、麻痺などの症状の出具合が変わってくるので、画像などから判断できるくらいの知識も必要となります。
脳神経内科で適切な治療や看護ケアがなされるためには、情報収集とそれに対するアセスメント力は必須です。
特に生命維持に関わる重要な症状として意識障害がありますが、看護師は正確に病態を把握し今後どうなるかまで予測し迅速に対処できる能力が求められます。
意識障害のように自分で訴えられない患者さんも多いため、注意深い観察や患者さんへの関心から必要なニーズを考えケアに繋げられるかどうかも大切な要素となってきます。
また疾患によって運動障害や感覚障害が生じます。
そのような患者さんに対して何でも援助してしまうのではなく、自律を意識した支援まで考えられるかも重要です。
やむを得ず障害が残ってしまった場合には、それを受け入れて生活していかなければなりません。
入院中には他職種と協力して、残存機能をできるだけ引き出しセルフケアを支援していく関わりが必要となります。
リハビリの意欲が高まるような声掛けや、できた事を認める声掛けなどといったコミュニケーションスキルは、職場のスタッフ間のより良い関係性を築く際にも必要です。
自分の発する言葉が相手にどのような影響を与えるかを意識して会話することが好ましいのですが、意識するあまり却って無口になったのでは元も子もありません。
ですから自己の接し方を後から振り返り考える作業をしていくことが大変重要なのです。
脳神経の疾患では合併症や二次的障害によって、肺炎や関節拘縮・委縮、転倒、褥瘡、廃用性症候群を引き起こすことが多く、寝たきりになったり経過が長くなるなど予後に影響を及ぼします。
そのため特に重要となるスキルは観察力と言えます。
何も考えないで観察した場合と、予測まで踏まえた目で見る場合とでは見え方や気づきに大きな差が出ます。
従って日頃から異常の早期発見と予防を意識したケアの実践が必要となります。
脳神経内科ナースにとってのやりがいについて
脳神経内科の対象となる疾患には難病や腫瘍など完全に完治することが困難なケースがほとんどです。
そのためいつも元気に回復して退院していく患者さんの姿を想像していると期待はずれに感じてしまうかもしれません。
しかし最初はバイタルサインが安定せずに生命の危機にさらされていた患者さんの状態が徐々に安定し、車椅子に座ってリハビリに行けるようになると担当看護師としては充実感を覚えます。
あるいは麻痺や失語などの障害があっても、次第にそれを受け入れ障害とともに生きていく覚悟が言動として現れるとこの仕事をやってよかったと思えるかもしれません。
そこまでの状態になるには患者さん自身の力はもちろんですが、それ以外にチーム医療としての総合的なケアの力も大きいと思われます。
その一端を担っている看護師は、患者さんの現在の状態を正確に把握し、さらに今後期待できる状態になるようにあるいは近づけるような看護計画を実施していきます。
具体的には毎日の観察や日常ケア、点滴の管理などを実施していくのですが、ただ単に毎日のルーチンとして行っていたのでは何も感じずに一日の業務を終えることになります。
しかしその患者さんの看護目標を意識して一つ一つのケアを実施することによって、患者さんの反応や状態の変化にやりがいを感じることができます。
看護は決して一人の力で成し遂げられる仕事ではありません。
同じ目標に向かって業務を遂行する看護チームの協力は必要不可欠です。
また他職種とのチームカンファレンスなどで自分の得た患者さんに関する情報などが活かされた時などは、とても満足感とともにやりがいも得られます。
このようにチーム間で仕事をする上で欠かせないスキルがコミュニケーションであり、人間関係の構築や情報交換への活用には個人個人に差が出てくる部分でもあります。
これらの仕事でやりがいを感じるためには、自分自身の技術の鍛練や知識の蓄積が必要となります。
日々の業務の中で苦手な分野や技術について意識的に取り組み克服していくことで自己の成長に繋がり、それが仕事上のやりがいとなっていくのです。
脳神経外科と脳神経内科の業務内容の違いは?
脳神経外科と脳神経内科の違いは外科的な手術が必要な場合には脳神経外科で、それ以外の保存的治療が必要な疾患はすべて脳神経内科での治療となります。
一般的に硬膜下や硬膜外、頭蓋内の出血は外科的手術によって取り除く必要があります。
また脳梗塞や脳出血でも大きな血管に病変がある時には手術が適用されます。
ですからそれに伴って看護師の業務内容も違います。
外科では手術前の準備と手術後の管理が大部分を占めています。
緊急手術、計画的な待機手術がありますがいずれも術前には医師から本人または家族への説明があります。
頭部の手術をするというだけでかなりの人は動揺するため、看護師は理解度によって説明を補足したり、最度医師に説明を依頼するなどします。
そのため看護師は当然手術内容については十分に理解しておく必要があります。
術後は経時的に全身状態や傷の状態、ドレナージなどの排液量を観察するため非常に多忙となりますが、日に日に回復していく患者さんの姿にやりがいを感じる看護師は多いようです。
一方脳神経内科では点滴や内服薬による薬物療法と、早期からのリハビリテーションが主な治療となります。
外科では血腫を取り除くことで、元の生活に戻れる確立が高いのですが、脳神経内科の予後はそれほど芳しくない場合がほとんどです。
疾患の完全な回復は難しく、障害を抱えた状態でこれから生活していかなければならないため、リハビリによって少しでも機能を回復していけるように取り組まなければなりません。
脳の障害が大きかったり、高齢者によってはリハビリに対して意欲的に取り組むことが難しいケースもあるため、看護師は患者さんの身体的状態とともに心理状態も観察しながら援助していくようにします。
外科に比べれば一人の患者さんに向き合う余裕があるため、外科的な処置よりも患者さんへの精神的ケアのほうを重視したい人には向いている職場です。
一般的に脳神経外科で働いている看護師のほうが時間に追われ忙しそうで怖そうな感じですが、確かに業務上そうならざるを得ない環境なのでしょう。
脳神経内科でも時間で検査やリハビリに行くなどはありますが、それ以外は比較的自分の動きがとりやすい職場のように思われます。
脳神経内科における陥りがちな悩みとは?
脳神経内科では薬物療法が主に行われるため、看護業務として点滴管理が多くなる特徴があります。
また日常的に検査室やリハビリ室へいくためのベッドと車椅子間の移乗や移送も多い上に、ADLが低下している患者への日常生活ケアなどもあり多忙です。
そこに入退院が加われば時間内に業務を終えることができなくなります。
もしもそのような状況が続けば、かなりのストレスを抱えることになり業務に支障を来たしかねません。
しかし同じ業務でもきっちりこなしている看護師もいるため、何故自分はできないのかと悩みは強まるばかりです。
その状況を打破するには、まずは自分自身の行動を客観的に振り返ることが大切です。
自分とできる人との差は何かを分析し、一つずつ克服していくほかないでしょう。
自分のできない部分を認め、できるようになるまでは他者の力を借りようくらいの気持ちの切り換えも必要です。
他者との関係性に悩む看護師も多いようです。
特に同じ看護師間や介護職とのトラブルが原因で、チーム力を発揮できない職場も存在します。
患者さんにも影響が出てしまう問題なので、自分で解決できない場合には早めに上司に相談することも必要です。
相手と合わない、嫌だからと言って何も策を講じないのでは先へ進みません。
自分自身も対応を見直すなど変化していくことも時には大切です。
脳梗塞や脳出血の患者さんが入院中に再び発症して急変したり、重症筋無力症の患者さんが徐々に悪化してしまったりすることもあります。
そのような時は、回復していくことを目標に一生懸命看護していたという想いが強ければ強いほど大変衝撃的な気持ちになります。
急変の予兆を見逃していたのではないだろうかなどと後から悔いたりもしますが、一方では医療の限界を感じずにはいられないこともしばしばあります。
近年高齢患者さんの多くは認知症を抱えています。病院のように治療が優先される環境においてはトラブルを引き起こすこともしばしばあります。
点滴や尿留置カテーテルを自ら抜いてしまったり、安静を保持できずに歩行して転倒してしまうなどです。
必要性を説明しても伝わらない時には仕方なく抑制に至りますが、人間としての尊厳か生命維持かで悩む場面ではあります。
こうした貴重な経験を積み重ねることによって看護師としての成長があるため、悩むことは決して悪いことではありません。
むしろ悩んだ数の多さだけ、豊かな人間性が育まれていくと思われます。
ただし一人で抱え込んで鬱々した状態でいるのはよくありませんので、上司などに相談することも必要です。
脳神経内科の業務が向いているタイプとは?
脳神経系は人体の生命を司る器官としてとても重要であるとともに、とても興味深くもあります。
そのような脳神経系の構造や機能、潜在的な能力などのついての関心や探究心を持っているナースは、それを自分自身の看護に役立たせることができるはずです。
脳梗塞や脳出血などでは早い段階からのリハビリが有効であることが知られています。
ナースもそれに関わっていく中で患者さん少しの変化や可能性にやりがいを見出し、共に喜び合える関係性を築いていけるかも大きなポイントとなります。
脳神経内科は外科系の多忙さに比べれば、多少はゆとりがあるのでじっくりと患者さんに向き合いたい人には向いています。
患者さんへの興味や関心を持つことができ、どんな年代やタイプの人とでも会話できることが望ましいでしょう。
また自分だけでなく様々な職種が関わり合い、チームとして仕事に取り組まなければならない職場ですから、チーム内でのコミュニケーションや自分の考えをきちんと相手に伝えることもできればなお好ましいと思われます。
脳神経系の障害によってADLの低下した患者さんが多いため、身体的負担の大きい日常生活ケアがほとんどを占めます。
清潔のケアなど一人では困難な場合もあり、他のスタッフとの協力は欠かせません。
そのため相手の業務のことを考えて協力を求めたり、また自分も協力したりすることが業務をこなしていく上で必要となります。
特に夜間勤務では人数が限られた上にハードともなるため、よりいっそうの協力体制や周りを見る目が大切です。
いつも自分は助けてもらっているのに他の人のことを助けないのではチームとしての人間関係を良好に保つことはできません。
周りへの気配りができるということは、結局は患者さんへの気遣いもできるということにもなります。
このようなハードな勤務では体力面での負担が大きいことから、自分の健康についても関心を持ち体調コントロールができなければなりません。
また仕事でのストレスも体調を崩す原因となるため、十分な睡眠や食事、余暇の過ごし方などストレス対処が上手くできることは仕事を長続きできるコツでもあります。
脳神経内科におけるナースの役割について
脳神経疾患の解剖生理や病態を踏まえた上で、それぞれの疾患に伴う様々な症状について正確に把握し医師に伝えることが看護師の重要な役目です。
意識障害や麻痺、頭痛、めまい、しびれなど症状の部位や程度をアセスメントし、必要なニーズに対してケアを実施していきます。
特に広範囲な麻痺がある患者さんは日常生活の動作に支障を来しているために、清潔保持や排泄など生活全般にケアが必要となります。
医師の指示の下での治療や検査の補助を行っていきますが、同時に異常の早期発見と合併症や二次障害の予防も常に予測して実施しなければなりません。
例えば誤嚥性肺炎の予防として口腔ケアを行ったり、関節の拘縮を予防するための体位の工夫など、患者さんに必要なケアを積極的に実践していきます。
それにより原疾患の治療やリハビリがスムーズに進み、入院期間の遅延を防ぐことにもなるのです。
突然の発症と障害により、多くの患者さんは不安や悲嘆、怒り、抑うつといった感情が現れますが、次第にその状況に適応しようとします。
これをコーピングと言いますが人によっては適応できなかったり、時間がかかったり不安定な場合があります。
看護師はこのような心理状態を受け止め、情緒的安寧が得られるような関わりや言葉かけが必要となります。
脳神経内科では点滴による薬物療法が主となります。
重症な脳出血の場合、収縮期血圧が200台にまで上昇することがあり、体動によってさらに上昇することになれば生命への危険度は高まります。
そのため薬物を輸液ポンプなどで調整しながら注入して血圧の管理を行う必要があります。
またギランバレー症候群のように免疫グロブリンを大量に注入する治療法も行われるため、薬物の副作用についての十分な理解と点滴速度の定期的なチェックなど、患者さんの状態を常に観察することが重要です。
患者さんの治療過程において、医師以外にもリハビリスタッフや栄養士、看護助手など他の職種との連携は欠かせません。
患者さんとの接触時間の多い看護師は必要なニーズをいち早く知ることができるため、様々な部門へ積極的に働きかけていく役割を担っていると言えます。
脳神経内科の他職種との関わりは?
脳神経内科に多い疾患の多くはリハビリテーションが効果を発揮します。
特に脳梗塞や脳出血の多くは早期からのリハビリが有効であるため、重症の場合でも血圧が安定した段階で早々に開始されます。
身体機能の訓練を行う理学療法士、生活動作の機能を引き出す作業療法士、言葉や嚥下機能を訓練する言語療法士がおり、それぞれ医師の支持の下に訓練計画を作成し実施していきます。
通常安静が必要な状態ではベッド上やベッドサイドで、その後状態に応じて訓練室や生活環境を意識した訓練へと移行します。
看護師は療法士と協力してリハビリの効果がでるように、必要な情報を小まめに交換することが必要となります。
訓練室での訓練だけでなく生活の場となっている病棟でも個々の機能を考えた訓練を継続しなければならないため、一貫した方法でできるように認識を統一させます。
嚥下障害によって食事が食べられない、あるいは誤嚥しやすい問題を抱えた患者さんが多いため、NST(栄養サポート)チームが活動しておりその中心となって栄養問題に取り組んでいるのが管理栄養士です。
体重や採血結果などから総合的に栄養状態を評価し、食事内容や量などを検討したり嚥下しやすい食事形態への変更などを行っています。
脳神経内科の病棟では検査室やリハビリ室に患者移送が多いために、その業務を看護師と共に行っているのが看護助手です。
病院では介護福祉士やヘルパーの資格を持っている場合がほとんどで、身体的ケアも協力して行います。
急性期の治療が終了すれば退院となりますが、多くはすぐに自宅復帰が困難な状態であると言えます。
回復リハビリ病院や老人保健施設、療養型病院などへ転院する場合、入院した時点から準備が進められていきます。
看護師は身体的な状況だけでなく、家族や家庭環境など社会的背景まで把握した上で、メディカルソーシャルワーカーに必要な情報を提供し次の移転先や連携を依頼します。
メディカルソーシャルワーカーはその人に合った移転先を探したり、利用できる社会福祉サービスを紹介するなど病院と外部との窓口的な役割を果たしています。
介護保険制度がかなり浸透してきたことにより、看護師は患者さんやその家族から退院後のことについて相談を受けることが多くなってきました。
地域の介護サービスについてはある程度の知識を身につけておいたほうが好ましいのですが、より詳しい内容に関しては院内のメディカルソーシャルワーカーを紹介していく必要もあります。

